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小説「夏風越の」 隼人外伝 2

 寺というのは、情報源でもあった。他国の旅人が寺に泊まることが多く、宿泊時の四方山話

が、閉ざされた地方には得難い話を持ち込むのであった。

大名家ばかりでなく、旗本などの書領地が入り組む三州街道沿いには、古刹も多い。

天台宗 大嶋山 瑠璃寺。開基900年の歴史に生きるこの寺も、その一つである。 薬師瑠璃光

如来三尊佛を本尊とし、日本で唯一の 薬師猫神様も祀られている。

 その寺近くの街道脇に、旅姿にきりりと身を固めた若い娘と供の小物がいて、周りを数人の

男に取り囲まれていた。

「懐の書付を出せ。」と迫るのに対し「ご無体な!書付とは何のことでございましょう。私に

は与り知らぬこと。見当違いにござりましょう!」

「いいや、そなただ。見間違いはない。早く出せ。」

小雪は、先代殿様の寵愛をうけていた叔母のもとに江戸屋敷奉公をしていたが、叔母がみまか

ったのを機に、故郷の黒田に帰る道すがら、嗜んでいる和歌を思い浮かぶまま書き留めていた。

先ほども、道路脇の地蔵堂で一休みした際、懐紙に矢立の筆を走らせていたが、そういえば後

から来た数人が堂の外でなにやらひそひそ話をしていた。堂内にいた小雪たちに気づくと、そ

そくさと立ち去った者たちらしい。

「ええい面倒だ。どのみち話を聞かれたのなら生かしておくわけにいかぬ。切り捨てよ!」

己たちの言い分のみを通そうとする乱暴狼藉に及ぼうとしていたのである。

「待たれよ!白昼も憚らず、婦女子を相手に如何なる所存か?」たまたま通りかかった隼人が

瞬きの間も与えず、囲みの中にすっと割って入ると、背中に小雪主従を庇い「早くここを離れ

るがよい。」と、小声で促した。

「無用の邪魔立てをするな。その方に関わりないことぞ。」と喚きたてるのに向かって、「最

前より見るに、おぬし等の勘違いのようじゃ。こちらの主従に思い当たる節がなさそうなのは

明白じゃ。刀を引いて、早々に立ち去れ!」

オッ取り囲んだ面々は、問答無用とばかりに、呼吸を合わせ、四方から隼人めがけて切りかか

った。白刃が交差するなか、隼人の躰はひらりひらりと舞うように動き、ときに白刃の背に次々

乗って廻っているかに見えた。「天狗舞い」隼人は息一つ乱れていなかったが、切りかかった

者たちはすでに息も絶え絶え、へとへとになっていた。

圧倒的技量差に男たちは戦意を失い、ほうほうの体で這うようにして姿を消した。

「危ういところを忝のうございました。」衣文を正し腰をかがめて挨拶する小雪に、「いやな

に、双方に怪我もなくよかった。」汗一つないさわやかな顔であった。

「某は、飯田城下まで戻るところであるが、そなたらはいずれまで参られる?途中までお送り

もうそう。」黒田まで行くという小雪主従を、念のため警護しようというのであった。

 

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小説 「夏風越の(なつかざこしの)」 

幕末から現代に生まれ変わって、超常現象を介して話しが進むシリーズ。

http://aa3take.web.fc2.com/syortstory1.html 

 

 

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